第19話 10問中10問を、私はまだ信用しない
9月7日。
高校3年生。
世界史。
『世界史一問一答』。
この日の口頭テストです。
121〜130ページ。
10問中10問。
131〜141ページ。
10問中10問。
ここまでなら、
かなりできています。
ところが、
次に、
それまでに勉強した全範囲から、
ランダムに5問出しました。
結果。
5問中3問。
そのあと、
新しく進んだ142〜151ページ。
10問中9問。
10/10。
10/10。
3/5。
9/10。
私は、
この3/5のほうが気になりました。
■ 10問中10問なら、本当に覚えているのか
普通なら、
10問中10問。
満点です。
「覚えた」
と判断しても、
おかしくありません。
しかも、
二つの範囲で連続して満点。
かなり仕上がっているように見えます。
でも、
範囲を崩した瞬間、
5問中3問になった。
なぜでしょう。
■ 順番が、ヒントになっている
一問一答を、
121ページから130ページまで勉強する。
そのあと、
同じ範囲から質問する。
すると、
生徒には、
見えないヒントがあります。
今、
どの時代をやっているのか。
どの地域なのか。
直前に、
どんな人物が出てきたのか。
前の問題は何だったのか。
教科書や一問一答は、
知識がある程度、
まとまって並んでいます。
そのため、
問題そのものだけではなく、
周辺の情報も使って答えている可能性がある。
これは、
悪いことではありません。
最初に覚える段階では、
むしろ必要です。
知識は、
つながっていたほうが覚えやすい。
ただ、
その状態を、
「完全に覚えた」
と判断していいのか。
私は、
そこを疑っています。
■ だから、5問だけ抜く
最近、
世界史の口頭テストで、
少し違うことを始めています。
以前にやった全範囲から、
5問だけ、
ランダムに出す。
たった5問です。
全部をテストするわけではありません。
でも、
これが意外に難しい。
今回も、
直前の範囲なら、
10/10。
10/10。
ところが、
ランダムになると、
3/5。
全部やらせるより、
5問だけ抜いたほうが、
難しくなることがあります。
■ 「全部やる」ほうが簡単なこともある
これは、
少し不思議です。
普通なら、
100問テストするほうが、
5問テストするより難しそうです。
でも、
暗記では、
必ずしもそうなりません。
順番に100問やれば、
前後関係があります。
「あ、このあたりはフランス革命だった」
「次はナポレオンだった」
「この後はウィーン体制だ」
そんな流れが、
記憶を助けてくれます。
ところが、
突然、
一問だけ聞かれる。
時代も飛ぶ。
地域も飛ぶ。
昨日の範囲でもない。
その瞬間、
頼れるのは、
その知識そのものです。
周辺情報に頼らず、頭の中から引っ張り出さなければならない。
だから、
5問のほうが難しい。
■ 入試では、順番に聞いてくれない
大学入試でも、
「昨日勉強したところから出します」
とは言ってくれません。
世界史なら、
さまざまな時代や地域の知識が必要になります。
英単語も同じです。
ターゲット1900を、
1番から100番まで順番に見れば、
答えられる。
でも、
837番を突然聞かれたら、
出てこない。
それなら、
まだ使える状態ではない。
数学も、
似たところがあります。
「今日は二次関数」
と分かっている問題と、
模試の中で突然、
二次関数を使う問題が出てくるのでは、
難しさが違います。
何を使う問題なのかまで、
自分で判断しなければならないからです。
■ 勉強は、ヒントを少しずつ消していく作業なのかもしれない
最初は、
ヒントがあっていい。
教科書を読む。
同じ単元をまとめて解く。
一問一答を、
ページ順に覚える。
数学なら、
「このページは三角関数」
と分かった状態で解く。
その段階では、
周辺情報を使いながら覚える。
でも、
いつまでも、
そのままではいけない。
次は、
順番を崩す。
過去範囲を混ぜる。
突然聞く。
別の単元と混ぜる。
つまり、
学習が進むにつれて、
ヒントを少しずつ外していく。
それが、
「覚えた」を、
「使える」に変える一つの方法なのかもしれません。
■ 3/5は、悪い数字ではない
ランダム5問。
3問正解。
60%。
10/10の直後ですから、
悪く見えます。
でも、
私は、
この3/5を出せたこと自体に意味があると思っています。
もし、
ランダムテストをしなければ、
この日の記録は、
10/10。
10/10。
9/10。
ほぼ完璧です。
「世界史は順調」
で終わります。
でも、
3/5が入った。
すると、
見え方が変わります。
新しく覚えた範囲は強い。
以前の範囲には、抜けがある。
これで、
次にやることが決まります。
■ すぐに全部やり直さなくてもいい
だからといって、
3/5だった瞬間、
最初のページから全部やり直す必要はないと思っています。
次の日も、
先へ進む。
新しい範囲を覚える。
そして、
また途中で、
ランダム5問を入れる。
5/5になるか。
また3/5なのか。
2/5に落ちるのか。
それを見る。
ここでも、
進むことと戻ることを、
同時にやります。
■ 「復習しました」では、まだ分からない
生徒は、
よく言います。
「復習しました」
でも、
何をもって復習したのか。
読み直した。
解き直した。
答えを見た。
もう一度覚えた。
いろいろあります。
私は最近、
そこにもう一つ加えたいと思っています。
時間を空けて、何のヒントもない状態で出せるか。
これができれば、
かなり強い。
できなければ、
また戻ればいい。
■ 10/10を疑う
塾の先生として、
10/10はうれしい数字です。
本人もうれしい。
私も、
○をつけやすい。
でも、
この連載を始めてから、
きれいな数字ほど、
少し疑うようになりました。
10/10。
本当に覚えたのか。
それとも、
直前にやったからなのか。
順番を覚えていたのか。
周辺の知識が、
答えを教えてくれたのか。
だから、
少し意地悪をする。
突然、
昔の問題を出す。
■ そして、数日後
この実験は、
9月7日だけでは終わりませんでした。
その後も、
世界史を先へ進めながら、
過去範囲から、
ランダムに問題を入れています。
すると、
面白いことが起きます。
新しい範囲では、
9割近く取れる。
でも、
昔の範囲から突然出すと、
正答率が落ちる。
つまり、
「今できる」と「残っている」は、別の数字
なのです。
ここを区別しないと、
勉強時間は増えているのに、
模試では取れない、
ということが起こるのかもしれません。
■ できる子ではなく、残る子をつくれるか
『ちりぬるを』では、
勉強する子が、
どうやってつくられるのかを見ています。
でも、
最近、
もう一つ問いが増えました。
勉強した子ではなく、
勉強したものが残る子は、どうやってつくられるのか。
一周する。
戻る。
二周する。
それでも、
まだ足りない。
順番を崩す。
時間を空ける。
突然聞く。
それでも答えられる。
そこまで来て、
ようやく、
「覚えた」
と言えるのかもしれません。
9月7日。
10/10。
10/10。
3/5。
9/10。
私は、
満点が二つ並んだことより、
その間に入った、
3/5
を残しておきたい。
この3/5が、
今まで見えていなかったものを、
見せてくれたからです。
次は、
この3/5が、
いつ5/5になるのか。
それを、
追ってみます。
(『ちりぬるを』第19話 了)

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