第11話 来ない子を、どうやって変えるのか
定期テストが終わった。
そして、来なくなった。
入塾して、まだそれほど経っていない高校生です。
テスト前には来ていました。
学校の課題がある。
テスト範囲がある。
点数を取らなければならない。
目の前に期限があるから、勉強する理由も分かりやすい。
ところが、
テストが終わった。
すると、来ない。
私は、その事実を見ながら考えていました。
この子に、
「もっと危機感を持ちなさい」
と言うべきなのだろうか。
でも、たぶん違います。
■ 本人には、危機が見えていない
高校生を見ていると、
大人には不思議に思えることがあります。
成績が決して良いわけではない。
大学についても、まだほとんど知らない。
高校卒業後に何をしたいのかも決まっていない。
それでも、
本人はそれほど焦っていません。
なぜなのか。
怠けているから。
やる気がないから。
そう片付けるのは簡単です。
でも私は最近、
「危機感がない」のではなく、「危機そのものがまだ見えていない」のではないか
と思うようになりました。
高校1年生、高校2年生にとって、
大学受験は遠い。
共通テストも遠い。
就職はもっと遠い。
「将来困るぞ」
と言われても、
実感できない。
一方、
次の定期テストは見える。
日付がある。
範囲がある。
点数が出る。
順位も出る。
だから動ける。
■ 「将来どうしたい?」では動かなかった
私は、生徒に進路の話をします。
大学の話。
学部の話。
入試科目。
推薦。
一般選抜。
将来の仕事。
知らないより、
知っていたほうがいい。
熊本の高校生には、
もっと外の情報を届けなければならないとも思っています。
でも、
情報を与えれば、
翌日から勉強するようになるか。
そんなことはありません。
「九大に行きたい」
と言った翌日に、
勉強しない子もいます。
「国公立に行きたい」
と言いながら、
テストが終われば休む子もいます。
言葉としての目標と、
今日机に向かうことの間には、
かなり大きな距離があります。
私は、その距離を、
本人の「やる気」で埋めようとしていたのかもしれません。
■ 学校の力は、ものすごく強い
一方で、
学校から言われると動きます。
「来週提出」
「ここまでテスト範囲」
「このワークをやっておくこと」
すると、
それまで動かなかった子が、
普通に机へ向かいます。
私は以前、
これを少し否定的に見ていました。
自分から勉強しているわけではない。
言われたからやっているだけ。
でも、
今はそう思いません。
言われたらやるのであれば、その力を使えばいい。
勉強習慣がまだない子に、
いきなり、
「自分の人生を考えて、自律的に毎日勉強しなさい」
と要求する。
考えてみれば、
かなり難しいことを求めています。
だったら、
最初は学校の力を借りればいい。
■ 次のテストを、今日始める
定期テストが終わる。
そこで、
「しばらく受験勉強をしよう」
とは言わない。
私は、
次の定期テストを始めます。
9月のテストなら、
7月から9月のテスト対策を始める。
学校ではまだ習っていない。
範囲も正式には出ていない。
それでも、
次に進むであろう単元はある程度分かります。
数学なら、
次の単元を始める。
英語なら、
次の文法へ進む。
理科なら、
教科書の続きを読む。
つまり、
「先取りをしよう」と言わずに、先取りをさせる。
生徒から見れば、
次の定期テスト対策です。
でも、
2ヶ月前から始めれば、
当然、学校より前へ出ます。
■ 私が変えたいのは、点数だけではない
もしこれで、
次の定期テストが上がった。
それだけなら、
実験としてはまだ弱いと思っています。
私が見たいのは、
その先です。
テスト終了。
翌日も来る。
次のテスト終了。
また翌日も来る。
それを何度も繰り返したとき、
ある瞬間から、
「テストがあるから勉強する」
ではなく、
「勉強するのが普通」
に変わらないだろうか。
最初は外から与えられた締切だったものが、
いつか本人の習慣に変わる。
私は、
そこを見たい。
■ 先取りより先に、習慣が必要だった
私はこれまで、
先取り学習には大きな力があると思ってきました。
学校より先に進めば、
学校の授業が復習になる。
理解も速くなる。
定期テスト前に余裕ができる。
その時間を入試問題に使える。
理屈はきれいです。
でも、
一つ条件がありました。
そもそも、その子が勉強すること。
教材を渡しても、
来なければ進みません。
計画を作っても、
開かなければ意味がありません。
だから、
先取りの前に、
「勉強する人」を作らなければならない。
そして、
勉強習慣がない子にとって、
学校の定期テストは、
もしかすると非常に強い装置なのではないか。
最近、
そう考えるようになりました。
■ 定期テストを、ゴールから「杭」に変える
普通、
定期テストはゴールです。
テストまで頑張る。
終わる。
休む。
また次のテスト前になったら頑張る。
私は、
この構造そのものを変えてみたい。
定期テストを、
ゴールではなく、
長い学習期間の途中に打たれた「杭」にする。
7月。
9月。
11月。
2月。
杭と杭の間を、
一本の線でつなぐ。
そうすれば、
「テスト期間」と「何もない期間」がなくなります。
一年中、
ただ勉強が続いている。
その途中に、
定期テストがあるだけです。
■ 来なかった子は、来るようになるのか
問題は、
ここです。
テストが終わった途端、
来なくなった高校生。
この子に、
「大学受験が大変だから来なさい」
と言っても、
おそらく大きくは変わりません。
だから、
次のテストを使います。
「もう次のテスト対策を始めるよ」
それだけです。
そこから、
本当に来るようになるのか。
来たとして、
何週間続くのか。
9月のテストが終わった翌日にも、
また机に座れるのか。
そして半年後、
誰かに言われなくても勉強する子になっているのか。
まだ分かりません。
むしろ、
うまくいかない可能性もあります。
また来なくなるかもしれない。
学校の行事に飲まれるかもしれない。
部活で疲れて、
途切れるかもしれない。
それなら、
その事実を書けばいい。
■ 勉強する子は、最初から勉強する子だったのか
毎日教室に来て、
3時間、4時間と勉強している生徒を見ると、
「あの子はもともと真面目だから」
と言われることがあります。
でも、
本当にそうなのでしょうか。
最初から勉強する子と、
勉強しない子がいる。
その二種類に、
最初から分かれているのでしょうか。
私は、
そうは思いたくありません。
来なかった子が、
来るようになる。
1時間だった子が、
2時間になる。
テスト前だけだった子が、
テスト翌日にも来る。
その小さな変化の積み重ねの先に、
「勉強する子」が生まれるのではないか。
だから、
この子を見ます。
来た日も記録する。
来なかった日も記録する。
何をやったかも残す。
そして、
次の定期テストが終わった日に、
私はまた同じことを言います。
「お疲れ様」
そして、
次の教材を机に置く。
「じゃあ、次を始めようか」
この繰り返しだけで、
人は変わるのか。
『ちりぬるを』で確かめたいことが、
また一つ増えました。
(『ちりぬるを』第11話 了)

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