【ちりぬるを】――勉強する子は、どうやってつくられるのか【第15話】

第15話 平均24点のテストを、追いかけるべきなのか

高校2年生の定期テストが返ってきました。

数学。

100点満点。

平均点は、

24点。

理数科も普通科も、

同じ問題だったそうです。

ワカスクの生徒は、

24点。

もう一人は、

18点。

低い。

数字だけを見れば、

当然、

「数学を何とかしなければ」

となります。

私も最初は、

そう考えました。

次のテストでは、

40点。

できれば50点。

学校ワークをやる。

黄チャートをやる。

テスト範囲を徹底的に対策する。

でも、

平均24点という数字を見ながら、

私は途中で考えるのをやめました。

本当に、ここを追いかけるべきなのだろうか。

■ もう一つの高校では、平均20点

別の高校2年生。

こちらも数学。

100点満点。

平均点は、

20点。

ワカスクの生徒たちは、

2点。

15点。

40点。

これも、

かなり低い。

ただ、

平均が20点です。

40点なら、

平均の2倍。

15点でも、

平均との差は5点。

2点は確かに厳しい。

でも、

学校全体が取れていないテストを見て、

「この子たちは数学ができない」

と一括りにしていいのか。

私は、

少し疑問を持ちました。

■ 定期テストは、何を測っているのか

学校のテストには、

学校ごとの文化があります。

難しい問題を出す学校。

平均60点前後になるように作る学校。

平均30点台でも普通の学校。

上位層を振り分けるために、

かなり難しくする学校。

同じ「数学40点」でも、

意味は全く違います。

平均20点のテストで40点。

平均60点のテストで40点。

同じ40点ですが、

学力を同じようには評価できません。

当たり前のことです。

でも、

生徒も保護者も、

そして私たち塾側も、

つい素点を見ます。

「数学24点」

その数字の強さに、

引っ張られます。

■ 24点を50点にするために、何時間必要なのか

ここで、

塾としては別の問題が出てきます。

時間です。

高校生が使える勉強時間には、

限界があります。

数学。

英語。

国語。

物理。

化学。

生物。

地理。

情報。

全部あります。

数学24点を50点にするために、

30時間必要だとします。

同じ30時間を、

英語に使ったらどうなるのか。

英単語。

英文法。

長文。

さらに、

英検。

こちらのほうが、

大学入試全体では大きな効果を生むかもしれない。

そう考えると、

「一番点数が低い科目から上げる」

という判断は、

必ずしも正しくありません。

■ 点数ではなく、「投じた時間に対する伸び」を見る

私は最近、

高校生の勉強を、

少し違う見方で考えるようになりました。

どの科目が低いか。

ではなく、

どこに1時間使えば、一番大きく前へ進むのか。

数学の難問1問に、

40分。

英単語なら、

同じ40分で何百語にも触れられる。

定期テスト専用の数学対策に、

何週間も使う。

その間に、

受験で必要な英語が止まる。

もちろん、

数学が受験の中心になる生徒なら、

話は違います。

数学を逃げるわけにはいきません。

しかし、

それでも、

学校の難しい定期テストで高得点を取ることと、

大学入試で必要な数学力をつけることが、

完全に同じとは限りません。

■ 「学校の点数を上げる塾」でなくていいのか

これは、

塾として少し怖い判断です。

保護者から見れば、

学校のテストは分かりやすい。

前回30点。

今回60点。

上がった。

塾の成果が見えます。

逆に、

数学24点。

次も30点。

でも、

その間に英単語1900語を回した。

英検に合格した。

数学Ⅱを先取りした。

共通テスト対策を始めた。

こちらは、

成果が見えにくい。

「塾に行っているのに、定期テストが上がっていない」

と言われる可能性もあります。

それでも、

私は考えなければなりません。

何のために、その子は勉強しているのか。

■ 定期テストの先に、大学入試がある

高校2年生なら、

残された時間は、

思っているほど長くありません。

一年後には、

受験生です。

国公立なら、

共通テストがあります。

私立なら、

大学ごとの入試があります。

推薦を使うなら、

評定も必要です。

英検が出願要件になる大学もある。

英検の級によって、

得点換算される大学もある。

つまり、

全員が同じ戦いをしているわけではありません。

評定が必要な子なら、

定期テストを追う価値は高い。

一方、

一般選抜を中心に考える子なら、

学校独自の難問を追いかけるより、

受験に直結する基礎を固めたほうがいい場合もあります。

■ 「全部上げる」は、できない

私は以前、

全部上げたかった。

数学も。

英語も。

理科も。

学校順位も。

模試も。

英検も。

でも、

現実の高校生を見ていると、

そんなにきれいにはいきません。

時間には限界があります。

だから、

何かを選ぶ。

ということは、

何かを後回しにする。

第8話で、

難しい理科の計算問題を、

あえてやらせない話を書きました。

今回も、

本質は同じなのかもしれません。

勉強では、「何をやるか」と同じくらい、「何を追わないか」が重要になる。

■ 低い点数を見ると、人は反応したくなる

24点。

18点。

15点。

2点。

こういう数字を見ると、

すぐ何かしたくなります。

補習。

追加問題。

テスト直し。

次回対策。

もちろん、

必要なこともあります。

でも私は、

一度止まって考えたい。

その点数は、

本当に今、

最優先で直すべき問題なのか。

平均点は何点だったのか。

その科目は、

入試でどう使うのか。

推薦に影響するのか。

同じ時間を別の科目へ使ったら、

何が起きるのか。

そこまで考えてから、

次の教材を決めたい。

■ だから、数学を捨てるわけではない

ここは、

間違えたくありません。

平均24点だから、

数学はどうでもいい。

そういう話ではありません。

数学は続けます。

必要な基礎はやる。

大学入試に必要なら、

当然、先へ進む。

ただ、

学校のテストの点数だけを目的に、学習全体を組み替えない。

これが、

今の私の判断です。

学校の24点を、

学校の50点にすること。

大学入試で必要な数学を、

一年後までに作ること。

似ていますが、

同じではありません。

■ 点数を上げることが、目的になった瞬間

塾は、

点数を上げる場所です。

私も、

点数は上げたい。

でも、

点数を上げることそのものが目的になった瞬間、

見えなくなるものがあります。

その子が、

どこへ行きたいのか。

何の試験を受けるのか。

あと何ヶ月あるのか。

どの科目なら伸びるのか。

何を捨てられるのか。

そして、

今日の2時間を、

どこへ置けばいいのか。

平均24点の答案を前にして、

私は、

数学の問題集ではなく、

その子の一年後を見なければならない。

そんな気がしました。

■ 次のテストで、数学は上がるのか

分かりません。

大きく上がらないかもしれません。

その代わり、

別の数字が上がるかもしれない。

英検。

模試。

受験問題。

あるいは、

今はまだ何も上がらないかもしれない。

それでも、

記録を続けます。

数学の点数も隠しません。

24点なら24点。

18点なら18点。

2点なら2点。

そのうえで、

半年後、

一年後に、

その選択が正しかったのかを見る。

低い点数を上げることと、
その子の学力を上げることは、
本当に同じなのか。

平均24点の答案が、

新しい実験を始めさせました。

(『ちりぬるを』第15話 了)

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