【ちりぬるを】――勉強する子は、どうやってつくられるのか【第18話】

第18話 一冊終わった。でも、4割しか取れなかった

8月26日。

高校2年生。

英語。

『ポラリス英文法ファイナル演習2』。

この日、

一冊が終わりました。

最後の正誤問題。

Unit8。

10問中4問。

Unit9。

10問中6問。

Unit10。

10問中7問。

終了。

でも、

できてはいません。

ここに、

参考書学習の面白いところがあります。

■ 「一冊終わりました」

塾をやっていると、

この言葉はとても使いやすい。

ターゲット1900終了。

ポラリス終了。

黄チャート終了。

入門問題精講終了。

保護者にも、

進捗が伝わりやすい。

生徒自身も、

達成感があります。

でも、

10問中4問。

この数字を一緒に書くと、

急に見え方が変わります。

一冊終わった。

でも、

4割しか取れないところがある。

では、

この「終了」とは、

何を意味するのでしょう。

■ 終了と完成は、違う

私は、

この二つを分けて考えています。

終了した。

最後のページまで到達した。

完成した。

必要な問題を、

自分の力で解ける。

これは、

まったく違います。

一周目を終えただけなら、

できない問題が残るのは、

むしろ普通です。

ところが、

「一冊終わらせる」という言葉には、

どこか、

「できるようになった」

という響きがあります。

ここを混同すると、

参考書学習は危険になります。

■ 4割なら、もう一度最初からやるのか

では、

10問中4問だった。

すぐ、

最初のページへ戻るのか。

私は、

必ずしもそうしません。

この生徒は、

同じ日に数学もやっています。

黄チャート。

積分。

微分の2回目。

さらに、

入門問題精講の三角関数。

前日には、

ターゲット1900を、

1番から800番まで往復しています。

英語だけを、

一日中やっているわけではありません。

高校生には、

ほかの科目があります。

だから、

4割だったからといって、

英文法だけに全部の時間を戻すわけにはいかない。

ここでも、

第15話で書いた問題が出てきます。

時間を、どこへ配るのか。

■ でも、4/10は消してはいけない

先へ進む。

別の教材へ行く。

それ自体は構いません。

ただ、

4/10だった事実を、

消してはいけない。

記録に残す。

Unit8。

4/10。

これで、

戻る場所ができます。

一冊を終えたことで、

初めて、

一冊全体の中で、

どこが弱いのかが見える。

つまり、

一周目は、

勉強であると同時に、

検査でもある。

私は、

そう考えるようになりました。

■ 一周目で、穴の地図を作る

最初から、

全部できるようにする。

そう考えると、

一冊はなかなか終わりません。

でも、

一周目の役割を変える。

全体を通る。

できるところを見る。

できないところを見る。

4/10。

6/10。

7/10。

その数字を残す。

すると、

二周目は、

一周目と同じ勉強ではなくなります。

もう、

初めての道ではありません。

穴の場所が分かっている道を、もう一度通る。

これなら、

勉強の密度を変えられます。

■ 「4割しかできない」と「4割が見つかった」

同じ4/10でも、

見方を変えると、

少し意味が変わります。

「4割しかできなかった」

だけなら、

失敗です。

でも、

一冊を最後まで通した結果、

「ここは4割しか取れない」

と分かった。

それなら、

情報です。

勉強では、

できないこと自体より、

できない場所が分からないことのほうが怖い

のかもしれません。

「英語が苦手です」

では、

広すぎます。

「英文法が苦手です」

まだ広い。

「正誤問題が弱い」

かなり狭くなる。

「Unit8の正誤問題が4/10」

ここまで来れば、

やることが見えます。

■ この子は、以前にも一冊ずつ進んできた

この高校2年生は、

英単語をやってきました。

英文法も、

一冊ずつ進めてきました。

数学も、

入門問題精講。

黄チャート。

少しずつ前へ進んでいます。

それでも、

4/10は出ます。

私は、

それでいいと思っています。

むしろ、

一冊も終わらないまま、

「もっと基礎を完璧にしてから」

と何ヶ月も同じ場所にいるほうが、

怖い。

進めば、

弱点が出る。

弱点が出たら、

記録する。

そして、

また戻る。

第13話と第14話で書いた、

進むことと、戻ること。

英語でも、

同じことが起きています。

■ 問題は、二回目にどうなるか

本当に大事なのは、

4/10ではありません。

次です。

同じ範囲を、

もう一度やったとき。

4/10が、

6/10になるのか。

8/10になるのか。

また4/10なのか。

もし、

何度やっても4/10なら、

そのときは、

単なる記憶の問題ではない可能性があります。

文法事項そのものが、

理解できていない。

問題文の読み方が違う。

選択肢の判断基準が曖昧。

そこで、

初めて指導の仕方を変える。

私は、

一回目の低得点だけで、

すぐ全部を説明しないようになりました。

■ 「終わった」という言葉を変えたい

最近、

生徒が、

「終わりました」

と言うと、

私は少し考えます。

何が終わったのだろう。

ページが終わった。

一周目が終わった。

それだけかもしれない。

だから、

「完成」ではなく、

「一回、全部見た」

くらいに考えたほうが、

実態に近いのかもしれません。

ターゲット1900を終えた。

1900語を全部使える、

ではない。

黄チャートを終えた。

全部の問題を解ける、

ではない。

英文法を終えた。

文法問題を全部取れる、

ではない。

でも、

一回全部見たからこそ、

二回目が始められます。

■ 参考書は、一冊目より二周目から面白くなる

新品の参考書を買う。

最初のページを開く。

ここには、

少し特別な感じがあります。

でも、

私は最近、

書き込みだらけになった二周目の参考書のほうが、

面白いと思っています。

○。

×。

4/10。

6/10。

日付。

前回より取れた。

また間違えた。

そういう跡が残っている。

それは、

ただの問題集ではありません。

その子が、どこで止まり、どこを越えたかの記録

になっています。

■ 本当に怖いのは、「終わったから、もうやらない」

8月26日。

『ポラリス英文法ファイナル演習2』終了。

もし、

この一行だけなら、

きれいです。

でも、

私はその下に、

4/10。

6/10。

7/10。

も残したい。

この数字がある限り、

まだ戻れます。

本当に怖いのは、

4割だったことではありません。

「一冊終わったから、英文法は終了」

と考えてしまうことです。

前回の高2の生徒は、

高校1年生でかなり先まで英語を進めました。

そして、

一年近く離れた。

順位は落ちた。

もう一度戻った。

順位も戻り始めた。

第17話で、

その話を書きました。

教材も、

同じなのかもしれません。

終わった。

離れる。

忘れる。

戻る。

またできるようになる。

学力というものは、

一度完成させて保存するものではなく、

何度も手入れしながら維持するもの

なのかもしれません。

■ 4割から始まる

一冊終わった。

10問中4問。

以前なら、

少しがっかりしたかもしれません。

今は違います。

4/10なら、

次に見る数字があります。

二回目。

三回目。

そして、

模試。

英検。

大学入試。

そこで、

この4/10が、

どう変わっていくのか。

だから、

この日の記録は、

失敗の記録ではありません。

成功の記録でもありません。

測定開始。

それくらいが、

ちょうどいい。

一冊終わったところから、

ようやく、

その子の本当の弱点が見え始めます。

(『ちりぬるを』第18話 了)

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