第一・第二・マリストを比較して見えてきた、進路指導のもう一つの問題
2026年春の熊本大学合格者数。
第一高校59人。
第二高校49人。
熊本マリスト学園9人。
これまで、私はこの数字を出発点に、三つの高校の学力や大学進学実績を比較してきました。
高校入試の難易度。
進研模試の学校平均。
全統模試での全国平均との差。
そして、実際の大学合格者数。
数字を集めるほど、高校の実態が少しずつ見えてきます。
しかし、今回、マリストの高校3年生の進路について考える中で、新たな疑問が生まれました。
学校が増やしたい大学合格者数と、生徒本人が希望する進路は、必ずしも一致しないのではないか。
今回は、この問題を考えます。
1.入学時の難易度では第二高校が上
まず、第一高校と第二高校を比較します。
2026年度の同一資料による高校入試偏差値の目安は、次のとおりです。
| 高校・学科 | 偏差値 |
|---|---|
| 第二高校・理数科 | 68 |
| 第二高校・普通科 | 67 |
| 第一高校・英語科 | 64 |
| 第一高校・普通科 | 63 |
入学時の難易度では、第二高校が第一高校を上回っています。
ところが、2026年春の熊本大学合格者数では、第一高校が逆転しました。
第一高校59人。
第二高校49人。
10人の差です。
過去の推移を見ると、第二高校の熊大合格者数は次のようになっています。
| 年度 | 第二高校 |
|---|---|
| 2021年 | 68人 |
| 2022年 | 66人 |
| 2023年 | 69人 |
| 2024年 | 58人 |
| 2025年 | 56人 |
| 2026年 | 49人 |
一方、第一高校は近年、おおむね50人台を維持しています。
2026年の逆転は、第一高校が突然大きく伸びたというより、第二高校の合格者数が減少した影響が大きいと考えられます。
ただし、合格者数だけで第一高校の指導力が第二高校より優れていると判断することはできません。
そもそも、熊本大学を希望した生徒が何人いたのか分からないからです。
2.第二高校の全国模試は、見方によって印象が変わる
現在の高校2年生の模試結果も確認します。
7月の進研模試では、第二高校の国語・数学・英語3教科の学校平均は117点でした。
全国平均は98点。
全国平均を19点上回っています。
この数字だけを見ると、第二高校には全国的にも高い学力を持つ生徒が多いように感じます。
ところが、第2回全統高2模試では結果が変わります。
3教科の学校平均は230.2点。
全国平均は242.1点。
今度は全国平均を11.9点下回りました。
進研模試では全国平均を19点上回り、全統模試では11.9点下回る。
なぜ、このような違いが生まれるのでしょうか。
大きな理由は、模試によって受験者集団が異なることです。
全国平均という数字も、模試によって意味が変わります。
したがって、進研模試の偏差値だけを見て、第二高校の中間層まで熊本大学に十分合格できると判断するのは慎重であるべきでしょう。
もっとも、現在の高校2年生の模試結果から、2026年春の卒業生の熊大合格者数49人を直接説明することもできません。
世代が違うからです。
3.マリストの校内上位者は、全国でどの位置にいるのか
今回、新たに確認できたのが、マリスト高校3年生の9月進研模試です。
理系の生徒です。
結果を見てみます。
| 科目 | 全国偏差値 | 校内順位 |
|---|---|---|
| 数学ⅠA | 48.9 | 55/147 |
| 数学ⅡBC | 60.1 | 10/148 |
| 英語 | 53.9 | 20/173 |
| 物理 | 55.0 | 8/66 |
| 化学 | 61.2 | 4/93 |
| 地理 | 60.7 | 5/72 |
| 6〜8理系総合 | 52.2 | 9/88 |
注目したいのは、理系総合の校内順位です。
88人中9位。
同じ科目型の受験者の中で、上位約10%に入っています。
一方、全国偏差値は52.2です。
数学ⅡBCでは全国偏差値60.1、校内10位。
化学では全国偏差値61.2、校内4位。
地理でも全国偏差値60.7、校内5位です。
得意科目では全国偏差値60を超えていますが、理系総合では52.2。
ここから、マリストの学力を考えるうえで重要なことが分かります。
校内上位にいることと、全国の難関大学受験者の中で上位にいることは、同じではありません。
ただし、この順位は各科目の受験者集団内での順位です。
また、一人の結果だけで学校全体の学力分布を断定することはできません。
それでも、実際の模試結果として参考になる数字です。
4.定期テストの平均点だけでも学力は測れない
学校の定期テストについても、興味深い数字があります。
第二高校の高校2年生では、数学の平均点が24点だった試験があります。
マリストでは、高校1年生の数学で平均12点、高校2年生で平均20点だった試験がありました。
いずれも100点満点です。
ただし、異なる学校・学年・試験なので、これらの平均点を直接比較して学校の優劣を判断することはできません。
第二高校には、数学52点で校内38位だった生徒がいます。
マリストには、平均12点の数学の試験で9点だったにもかかわらず、進研模試の数学で全国偏差値60.0を取った高校1年生がいます。
学校の試験で9点だったからといって、全国的に数学ができないとは限らないのです。
難しい問題を出すことと、生徒が難しい問題を解けるようになることは別です。
本当に重要なのは、基本問題、標準問題、応用問題のどこまで理解できているか。
そして、学習を重ねることで全国模試の成績がどう変化しているかです。
定期テストの平均点だけでは、その部分は分かりません。
5.マリストの校内上位者が立命館大学を希望している
ここからが、今回最も考えたい問題です。
先ほど紹介したマリストの高校3年生は、九州工業大学の総合型選抜を受験しました。
結果は不合格でした。
しかし、一般選抜で九工大を目指す余地がないわけではありません。
9月進研模試では、数学ⅡBCと化学で全国偏差値60を超えています。
さらに、九工大の共通テスト英語では、英検による70%換算を利用できる条件を満たしています。
それでも、本人が現在希望しているのは、立命館大学理工学部ロボティクス学科への指定校推薦です。
なぜ、立命館なのでしょうか。
理由を聞くと、明確でした。
将来、宇宙関連のロボット開発に携わりたい。
立命館大学には宇宙地球探査研究センターがあり、2028年には新しい宇宙関連大学院の開設が予定されています。
その研究環境に魅力を感じています。
また、学部4年間で卒業して企業に就職することも考えています。
ロボティクス学科を卒業したからといって、就職先をロボット関連企業に限定する必要はありません。
機械、自動車、電機、精密機器、情報通信など、学んだ知識を生かせる分野は幅広くあります。
立命館大学ロボティクス学科の2024年度卒業者91人のうち、31人が就職し、55人が進学しています。
大学院進学が多数派ですが、学部卒で就職する道もあります。
一方、宇宙関連ロボットの研究をさらに深めたくなれば、大学院進学を選ぶこともできます。
立命館の新大学院だけでなく、九工大、京都大学、大阪大学などの大学院を目指すことも可能です。
もちろん、大学院への進学には、それぞれの入試を突破する必要があります。
つまり、本人は大学の名前だけで進学先を選んでいるわけではありません。
将来の研究と就職の両方を考えて、立命館大学を希望しているのです。
6.しかし、立命館への推薦はまだ決まっていない
ここで、非常に重要なことがあります。
この生徒は、まだ立命館大学の指定校推薦に選ばれたわけではありません。
現時点で学校から認められているのは、指定校推薦への申し込みです。
最終的に推薦されるかどうかは、これからの校内選考にかかっています。
校長による最終的な判断も残っています。
私は、この結果に注目しています。
なぜなら、この生徒は学校の理系上位層に位置しているからです。
9月進研模試では、理系総合で校内9位。
数学ⅡBCで10位。
化学で4位。
九工大の一般選抜にも挑戦する余地があります。
そうした生徒が、明確な志望理由を持って、私立大学の指定校推薦を希望しています。
学校は、どのように判断するのでしょうか。
7.学校が国公立大学の合格者数を増やしたいなら
ここで、一つの仮説を考えてみます。
もし学校が国公立大学の合格者数を増やすことを強く重視しているなら、今回のような校内上位者には、国立大学の一般選抜を受験してほしいと考えるかもしれません。
実際、学校の大学合格実績を見るとき、多くの人が国公立大学の合格者数に注目します。
熊本大学に何人合格したのか。
九州大学に何人合格したのか。
旧帝国大学には何人合格したのか。
こうした数字は、高校の評価にも影響します。
だからこそ、学校にとって、国公立大学に合格する可能性のある生徒は重要な存在でしょう。
しかし、生徒本人にとって最も重要なのは、学校の合格実績を増やすことではありません。
自分がどの大学で何を学び、卒業後にどのような道へ進むかです。
今回の生徒は、宇宙関連ロボットを学びたいという希望を持っています。
そのうえで、立命館大学を選ぼうとしています。
もし学校が国公立大学の合格実績を優先して推薦を認めないとすれば、学校側の目標と生徒本人の希望が衝突することになります。
ただし、これは現時点では仮説です。
学校が実際にどのような方針で判断するのかは分かりません。
指定校推薦には、評定、出願資格、校内選考基準、他の希望者との競合など、さまざまな条件があります。
仮に推薦されなかったとしても、それだけで「国公立大学の合格実績を増やしたいからだ」と断定することはできません。
だからこそ、最終的な結果と、その判断理由を確認する必要があります。
8.これだけの校内上位者を、学校は推薦するのか
私は、ここに強い関心を持っています。
九工大の総合型選抜に挑戦した。
結果は不合格だった。
しかし、一般選抜で国立大学を目指す余地は残っている。
その一方で、本人は将来の研究分野や就職を考え、立命館大学を希望している。
しかも、校内の理系上位者です。
このような生徒に対して、学校はどのような判断を下すのでしょうか。
もちろん、指定校推薦は本人が希望すれば必ず認められる制度ではありません。
学校には、推薦する生徒を選考する責任があります。
ただ、その選考で何を重視するのかは、進路指導の姿勢を考えるうえで重要です。
学力があるからこそ、国立大学の一般選抜を受けてほしいと考えるのか。
それとも、本人の希望する学部・学科と将来の目標を重視するのか。
両方を考慮したうえで、校内規定に従って判断するのか。
校内上位の生徒が、明確な理由を持って指定校推薦を希望したとき、学校はその意思をどこまで尊重するのか。
私は、その結果を見たいと思っています。
9.第一・第二・マリストの合格者数を、もう一度考える
ここで、最初の数字に戻ります。
第一高校59人。
第二高校49人。
マリスト9人。
これは2026年春の熊本大学合格者数です。
しかし、学校がどのような進路指導をしているかによって、大学合格実績の数字は変わる可能性があります。
国公立大学の一般選抜を積極的に勧める学校。
生徒の希望に応じて私立大学の推薦入試も活用する学校。
大学の難易度を重視する学校。
学部・学科や卒業後の進路を重視する学校。
もちろん、実際の学校の方針は、こうした単純な分類では説明できないでしょう。
それでも、進路指導の方針が違えば、最終的な大学合格実績にも違いが出る可能性があります。
例えば、国立大学に合格する可能性のある生徒が、本人の希望で私立大学の指定校推薦を選ぶことがあります。
その場合、その生徒は国立大学の合格者数には加わりません。
しかし、それが本人にとって希望する進路なら、大学合格実績の数字だけで否定することはできません。
反対に、本人が国立大学を希望しているなら、その合格を目指して指導することが重要です。
つまり、大学合格者数だけでは、その学校が生徒の希望する進路をどれだけ実現しているかは分からないのです。
ただし、今回の一人の事例で、マリストの熊大合格者数9人の理由を説明できるわけではありません。
第一高校と第二高校についても、実際の志望者数や推薦利用状況を調べる必要があります。
10.学校のための進路指導か、生徒のための進路指導か
私は、塾で生徒の進路相談をするとき、まず本人が何をしたいのかを確認します。
難関大学に行きたいのか。
特定の学問を学びたいのか。
大学院まで進みたいのか。
4年間で卒業して就職したいのか。
地元に残りたいのか。
県外で生活したいのか。
同じ成績の生徒でも、希望する進路は違います。
だから、全員に同じ大学を勧めることはできません。
今回のマリストの生徒も、単に受験が嫌になったから立命館を希望しているわけではありません。
宇宙関連ロボットを学びたい。
新しい宇宙関連大学院にも興味がある。
一方で、4年卒での就職も魅力的だと感じている。
そのような理由で進学先を考えています。
もちろん、本人の希望だけですべてが決まるわけではありません。
指定校推薦には学校の選考があり、大学入学後にも努力が必要です。
しかし、本人が将来を考えて選んだ進路であることは、判断の際に十分考慮されてほしいと思います。
学校の大学合格実績は、毎年更新されます。
しかし、生徒が高校を卒業して選んだ進路は、その後の人生に長く関わります。
その違いは大きいのです。
11.結論――推薦の結果が出てから、もう一度考えたい
第一高校59人。
第二高校49人。
マリスト9人。
これまで、この数字を中心に三校を比較してきました。
しかし、今回の事例を見て、大学合格者数だけでは分からない部分があると改めて感じました。
生徒の学力がどれだけ伸びたのか。
本人がどの大学を希望したのか。
学校はその希望をどのように扱ったのか。
そして、最終的にどのような進路が実現したのか。
こうしたことまで見なければ、高校の進路指導を十分に評価することはできません。
今回のマリストの生徒については、まだ結論が出ていません。
立命館大学の指定校推薦への申し込みは認められました。
しかし、正式な校内推薦は決まっていません。
最終判断はこれからです。
推薦が認められれば、本人の希望する進路へ大きく前進します。
認められなかった場合は、その理由を確認する必要があります。
選考基準に基づく判断なのか。
他の希望者との競合なのか。
それとも、国公立大学への進学を重視する方針が関係しているのか。
今の段階で決めつけるつもりはありません。
ただ、校内上位の生徒が、自分の将来を考えて希望した進路に対して、学校がどのような判断を下すのか。
そこには、大学合格者数だけでは見えない、高校の進路指導の一面が表れるかもしれません。
結果が出たら、改めて考えたいと思います。
これからが、見ものです。
次回【熊本の高校を数字で見る 第13話】
「数学9点でも全国偏差値60」
――マリストの定期テストは、何を測っているのか。
平均12点の数学の試験で9点だった生徒が、全国模試では偏差値60。
定期テストの難しさと、本当の学力の関係を考えます。

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