【ちりぬるを】――勉強する子は、どうやってつくられるのか【第5話】

第5話 3時間あれば、高校数学はどこまで進むのか

8月27日。

高校生が、3時間数学をやりました。

教材は『黄チャート』。

二次関数です。

記録を見ると、こうなっています。

例題87 4問中4問。

PR87 6問中5問。

例題88 4問中4問。

PR88 4問中4問。

例題89 2問中2問。

PR89 1問中1問。

例題91 2問中0問。

PR91 1問中1問。

例題93 2問中2問。

PR93 3問中3問。

例題96 2問中0問。

PR96 2問中2問。

そして、この日で二次関数を終了しました。

そのまま次の「数と式」へ入ります。

例題1。

例題2。

例題3。

例題4。

例題5。

淡々と進んでいく。

私は横で、この記録を取っています。

そして最近、高校生の数学を見ながら考えることがあります。

高校数学は、本当にそんなに進まないものなのだろうか。

■ 「数学が苦手だから進まない」

高校生からよく聞く言葉があります。

「数学が苦手です」

確かに、高校数学は難しい。

中学数学とは問題の量も、抽象度も違います。

一問に時間がかかる。

解説を読んでも分からないこともある。

だから、

「数学は時間がかかる教科」

というのは間違っていないと思います。

ただ、生徒たちの記録を毎日見ていると、私は別の疑問を持つようになりました。

数学が進まない最大の原因は、本当に難しさだけなのだろうか。

単純に、

数学をやっている時間そのものが少ないのではないか。

■ 0問だった問題もある

先ほどの記録を見ると、全部できているわけではありません。

例題91。

2問中0問。

例題96。

2問中0問。

きれいな成功記録ではありません。

普通に間違えています。

分からない問題もあります。

ところが、その直後のPRでは、

例題91が0問だったあと、

PR91 1問中1問。

例題96が0問だったあとも、

PR96 2問中2問。

できています。

ここが面白い。

最初から数学が全部できるから速く進んでいるわけではない。

間違える。

解説を見る。

考える。

もう一度やる。

そして次へ行く。

それを3時間続けた結果、二次関数が終わり、次の単元に入った。

ただ、それだけです。

■ 3時間という時間

3時間。

大人が聞いても、長いと思います。

数学だけで3時間です。

でも大学受験という長い時間軸で考えると、この3時間が持つ意味はかなり大きい。

仮に一日30分しか数学をしなければ、

3時間分進むために6日かかります。

もちろん、単純な掛け算にはなりません。

集中力も違う。

復習も必要です。

それでも、

一つの教科にまとまった時間を投入すると、景色が変わる

ということは、生徒たちを見ていると感じます。

昨日まで「二次関数をやっている子」だった生徒が、

今日の終わりには、

「二次関数を終えて、数と式へ入った子」

になっている。

一日で現在地が変わる。

これは大きい。

■ 別の日、別の高校生

この夏、別の高校生は『黄チャート』のベクトルをやっています。

3時間。

PR1からPR19。

また別の高校生は、二次関数を進めています。

4時間20分勉強した日の記録には、

PR88。

PR89。

PR90。

PR91。

PR92。

PR93。

PR94。

PR95。

と並んでいます。

そして数学だけではありません。

その日は英単語も進めている。

こういう記録が、少しずつ増えてきました。

一人なら、

「数学が好きな子なんでしょう」

で終わるかもしれません。

でも、複数の生徒で似た現象が起きる。

すると私はまた、

「この子だからできた」

で終わらせていいのか、

分からなくなります。

■ 学校の進度を基準にしない

ワカスクでは、必ずしも学校の授業と同じ場所を勉強しているわけではありません。

必要なら戻ります。

逆に、進めるなら学校より先へ行きます。

ここで基準になるのは、

「学校が今日どこをやったか」

ではありません。

その子が、今日どこまでできるか。

です。

学校の授業がまだ来ていなくても、進めるなら進む。

逆に学校では終わっている単元でも、できなければ戻る。

私は以前、

「先取りできるのは、もともと勉強習慣がある子だけではないか」

と考えていました。

今も、その疑いはあります。

だから、先取りが万能だとは思っていません。

でも、この夏の記録を見ていると、

もう一つの可能性も考え始めています。

先取りできる子だから、長時間数学をするのではなく、

長時間数学をする環境に入ったから、結果として先取りになっているのではないか。

■ 先取りを目的にしなくてもいい

「高校1年生のうちに数学Ⅱまで終わらせる」

「高校2年生で数学Ⅲへ入る」

そういう計画を立てることがあります。

もちろん、大学受験から逆算すれば意味があります。

でも、生徒本人にとっては、

「半年後までにここまで」

と言われても、あまり実感がない。

それより、

今日の3時間で、

例題87。

88。

89。

91。

93。

96。

ここまで。

その方が具体的です。

そして翌日、

続きをやる。

気づけば単元が終わる。

また次の単元へ入る。

それを繰り返した結果、

学校より先にいた。

私は最近、

先取りとは目標ではなく、毎日の学習量の結果として起きるものなのかもしれない

と思っています。

■ ただし、時間を増やせばいいわけではない

ここでも、簡単に結論は出せません。

「数学は毎日3時間やれば伸びる」

と言ってしまえば簡単です。

でも、それでは何も分かっていない。

3時間座っていても、何も身につかなければ意味がない。

難しすぎる問題に2時間止まってしまうこともある。

逆に簡単な問題だけを大量に解いて、

「今日は50問やった」

と満足しても意味がないかもしれない。

だから私は、

時間だけではなく、

何をやったのか

を記録しています。

そして、

何問できて、何問できなかったのか

まで残しています。

例題91。

2問中0問。

これも消しません。

むしろ、こういう数字の方が重要なのかもしれません。

0問だったものが、その後どうなるのか。

そこを追いかけられるからです。

■ 数学ができる子は、最初から数学ができたのか

今日も高校生が黄チャートを開いています。

問題を解く。

間違える。

解説を見る。

また解く。

ページをめくる。

横から見ていると、本当に地味です。

突然、数学の才能が開花する瞬間などありません。

昨日まで解けなかった問題が、

今日は解ける。

それだけです。

でも、それが100問、200問、300問と積み重なったとき、

周囲からは、

「あの子は数学ができる」

と見えるようになる。

だとしたら。

私たちが「数学ができる子」と呼んでいるものの一部は、

最初から数学ができた子ではなく、

数学に使った時間と、解いた問題の数が、見えなくなった後の姿

なのかもしれません。

もちろん、まだ仮説です。

この夏だけでは答えは出ません。

だから、これからも記録します。

何時間やったか。

何問解いたか。

何問間違えたか。

そして数か月後、

この子たちの数学がどうなっているのか。

そのとき私は、もう一度この日の記録を見てみようと思います。

3時間あれば、高校数学はどこまで進むのか。

本当に知りたいのは、その先です。

その3時間を積み重ねた子は、いったいどこまで行くのか。

まだ、その答えを私は知りません。

(『ちりぬるを』第5話 了)

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