第17話 15番だった子が、150番まで落ちた
現在、高校2年生。
この子は、
高校入学前にワカスクへ来ました。
高校生活が始まる前です。
最初にやったのは、
英語でした。
中学英語を終えて、
高校英語へ入る。
英単語。
英文法。
英文解釈。
長文。
どんどん進めました。
約4ヶ月。
高校1年生の夏には、
MARCHレベルまで高校英語を進めました。
そして、
その途中で受けた7月の進研模試。
結果は、
学年15番。
私も驚きました。
ところが、
この話は、
「4ヶ月で英語を先取りしたら15番になりました」
では終わりません。
むしろ、
ここからのほうが面白い。
その後、
この子の順位は、
100番。
150番。
と落ちていきます。
そして現在。
英語をもう一度やり直して、
50番まで戻ってきました。
なぜ、
こんな動きをしたのでしょう。
■ 数学の教科書が読めなかった
高校1年生の夏。
英語はかなり先へ進んでいました。
一方、
数学には大きな問題がありました。
学校の数学の教科書を読んでも、分からない。
これは、
かなり困りました。
高校数学を教えればいい。
普通なら、
そう考えます。
でも、
私はそうしませんでした。
夏休み。
この子に渡したのは、
高校数学の難しい問題集ではありません。
中学1年生の数学です。
そこから、
自分でやり直してもらいました。
■ 高校生に、中1数学をやらせる
高校1年生の夏休み。
周りは、
高校数学をやっています。
その中で、
中学1年生から戻る。
本人にとっては、
面白い話ではなかったと思います。
でも、
目的は中学数学で点を取ることではありません。
私が欲しかったのは、
もっと別の力でした。
数学を、自分で読んで理解する力。
先生の説明を聞かなければ進めない。
解説してもらわなければ分からない。
それでは、
高校数学がこの先ずっと続きません。
だから、
内容が比較的やさしい中1数学まで戻して、
自分で読む。
自分で考える。
自分で解く。
分からなければ、
また読む。
それを、
中1からやり直しました。
■ 2学期、変化が起きた
夏休みが終わりました。
2学期。
もう一度、
高校数学の教科書を開く。
すると、
自分で勉強できるようになっていました。
私は、
ここが話の中で、
15番より重要なのではないかと思っています。
数学の点数が何点上がった、
という話ではありません。
それまで、
読んでも分からなかった教科書を、
自分で読んで進められるようになった。
つまり、
教材そのものが、
先生になり始めた。
これは大きい。
■ だから、数学をやらせた
自分で数学ができるようになった。
すると、
当然、
先へ進めたくなります。
数学をやる。
また数学。
さらに数学。
学校の先へ進む。
できなければ戻る。
また進む。
数学の自学ができるようになったことがうれしくて、
私は、
数学をかなりやらせました。
ところが、
別の場所で変化が起きました。
進研模試の順位です。
15番だった順位が、
下がっていく。
100番。
そして、
150番。
■ 数学が伸びているのに、総合順位は落ちる
ここは、
教育の難しいところです。
数学をやっている。
以前より数学は進んでいる。
自分で勉強する力もついた。
それなのに、
模試の総合順位は落ちる。
なぜか。
今振り返れば、
かなり単純です。
英語をやらなくなった。
高校入学前から、
あれだけ集中的にやった英語。
4ヶ月で、
かなり先まで進んだ英語。
それを、
一年近く、
ほとんど触らなくなった。
すると、
当然、
落ちます。
■ 一度できた英語は、保存されない
これは、
第7話から何度も出てきた話と同じです。
一度できた。
だから、
もうできる。
そんなことはありません。
英単語も忘れる。
英文法も忘れる。
読む速度も落ちる。
高校1年生の夏に、
MARCHレベルまで進んだ。
その事実と、
一年後にも同じ英語力があることは、
別です。
私は、
ここで失敗しました。
数学を作ることに集中するあまり、
英語を維持することを、
ほとんど考えていなかった。
■ そこで、一年ぶりに英語へ戻した
高校2年生。
もう一度、
英語を始めました。
英単語。
英文法。
以前やったものを、
もう一度やる。
完全な新規学習ではありません。
一度通った道です。
でも、
忘れています。
だから、
戻る。
英単語を回す。
英文法をやり直す。
そして、
今回の進研模試。
順位は、
50番まで戻りました。
15番ではありません。
でも、
150番から50番です。
■ これは、英語をやったからなのか
ここで、
また慎重にならなければいけません。
英語を再開した。
順位が、
150番から50番へ戻った。
だから、
原因は英語だ。
そう断定するには、
まだ材料が足りません。
問題との相性もある。
周囲の成績もある。
数学の蓄積が、
あとから効いてきた可能性もある。
でも、
少なくとも、
一つの事実は残ります。
15番だった時期。
英語を大量にやっていた。
100番、150番へ落ちた時期。
数学中心になり、
英語から離れていた。
50番へ戻った時期。
英単語と英文法を、
一年ぶりに再開した。
この時間の並びは、
無視できません。
■ 何をやったかだけでは足りない
この子の記録を見ていると、
成績を見るとき、
「何をやったか」だけでは足りないことが分かります。
何をやめたか。
こちらも重要です。
数学をやった。
それは記録に残ります。
でも、
その裏で、
英語をやらなくなった。
こちらは、
何もしなかったので、
普通なら記録に残りません。
しかし、
成績には出る。
もしかすると、
学習記録で一番怖いのは、
書かれているものではなく、
書かれなくなった科目
なのかもしれません。
■ 一科目を伸ばすと、別の科目が消える
高校生には、
時間の上限があります。
数学を3時間やれば、
その3時間は英語には使えません。
英語を2時間やれば、
理科には使えない。
だから、
一科目に集中すると、
何かが消えます。
私は、
数学を伸ばそうとして、
英語を消してしまった。
その結果が、
15番から150番への動きに、
少なくとも一部は表れているのかもしれません。
第15話で、
「どの科目を追うか」
という話を書きました。
この生徒は、
その問題を、
すでに一年かけて実際に見せてくれていました。
■ では、数学をやらせたのは失敗だったのか
私は、
そうは思っていません。
高校1年の夏、
数学の教科書を読んでも分からなかった。
そこで、
英語を続けて、
数学を放置していたら。
模試順位は、
もっと高いままだったかもしれません。
でも、
高校2年になった今も、
数学を一人で勉強できなかったかもしれない。
順位を一時的に落としてでも、
中1まで戻って、
数学を自分で勉強できるようにした。
これは、
大学受験まで考えれば、
必要な工事だった可能性があります。
つまり、
短期的な順位低下と、長期的な学力形成は、両立することがある。
ここは、
もう少し長く見なければ分かりません。
■ 「落ちた」は、失敗なのか
15番。
100番。
150番。
50番。
この数字だけを並べれば、
一度大きく失敗して、
少し戻したように見えます。
でも、
その間に、
別の変化が起きています。
数学の教科書を、
一人で読めるようになった。
数学を、
自分で先へ進められるようになった。
そして今、
英語をもう一度取り戻し始めている。
もし、
数学の自学力を残したまま、
英語が以前の水準まで戻ったら。
そのとき、
高校1年7月の15番とは、
意味の違う順位になるかもしれません。
■ 次は11月
次の進研模試。
11月。
私は、
かなり楽しみにしています。
15番に戻るのか。
30番なのか。
50番なのか。
また100番へ落ちるのか。
数字だけではありません。
英語を戻しながら、
数学を維持できるのか。
つまり、
今度の実験は、
二つの科目を同時に走らせられるか
です。
高校1年では、
英語に偏った。
そのあと、
数学に偏った。
高校2年。
今度は、
両方やる。
それで、
何が起きるのか。
■ 15番より、150番のほうが教えてくれた
塾の実績として使うなら、
15番だけ載せればいい。
「7月進研模試、学年15番」
きれいです。
150番は、
載せたくありません。
でも、
『ちりぬるを』では、
むしろ150番を書きたい。
なぜなら、
15番だけでは、
何も分からないからです。
英語をやった。
15番になった。
それだけなら、
偶然かもしれない。
その後、
英語を止めた。
順位が落ちた。
もう一度英語を始めた。
順位が戻った。
ここまで時間をつなげると、
初めて何かが見え始めます。
勉強は、積み上げるだけではない。
やめれば、落ちる。
戻れば、また動く。
当たり前のことです。
でも、
一人の高校生の2年間を、
数字と教材で追い続けると、
その当たり前が、
かなりはっきり見えてきます。
15番。
100番。
150番。
50番。
まだ途中です。
この数字の続きを、
私は11月に書きます。
そして、
今度こそ見たい。
数学を捨てず、
英語も捨てない。
二つを走らせたカンタが、
次に何番になるのか。
この子の実験は、
高校2年の秋から、
また新しい段階に入ります。
(『ちりぬるを』第17話 了)

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