【ちりぬるを】――勉強する子は、どうやってつくられるのか【第13話】

第13話 0点の問題を、そのままにして先へ進む

9月7日。

高校2年生が数学をやっています。

『入門問題精講ⅡB』。

単元は「式と証明」。

練習1 2問中2問。
練習2 3問中3問。
練習3 2問中2問。
練習4 2問中2問。
練習5 4問中3問。
練習6 2問中2問。
練習7 2問中2問。

ここまでは、かなり取れています。

そして、

練習8。

2問中0問。

次の練習9は、

2問中2問。

そのあと、

『黄チャートⅡB』へ。

例題1 5問中5問。
PR1 5問中4問。

私は、この記録を見て、

練習8に戻して、

できるまでやらせたわけではありません。

先へ進ませました。

■ 0点なのに、進んでいいのか

2問やって、

2問とも間違えた。

普通に考えれば、

ここは弱点です。

理解できるまで説明する。

類題を出す。

できるようになってから、

次へ進む。

そのほうが、

丁寧な指導に見えます。

でも、

ワカスクでは、

必ずしもそうしません。

0問中0問でも、先へ進むことがあります。

これは、

できなくてもいい、

という意味ではありません。

戻ってこない、

という意味でもありません。

今は、

止めない。

それだけです。

■ 一問のために、一日が終わる

数学を教えていると、

難しい一問があります。

考える。

分からない。

もう一度考える。

解説を読む。

まだ分からない。

先生に聞く。

説明を受ける。

もう一度解く。

気づけば、

30分。

場合によっては、

1時間。

その問題を理解すること自体には、

価値があります。

でも私は、

別の数字も見ます。

その1時間で、

ほかの問題を何問できたのか。

一問に1時間使ったことで、

本来20問進めたはずの時間を失っていないか。

特に、

まだ一冊目をやっている段階では、

この差は大きい。

■ 一周目の目的は「完成」なのか

参考書を始めると、

私たちは、

一周目から全部できるようにしたくなります。

でも、

考えてみれば不思議です。

初めて習う内容なのに、

一度で全部できる。

そのほうが、

むしろ珍しいはずです。

だから私は、

一周目を、

完成のための周回とは考えていません。

一周目には、

別の役割があります。

全体を見ること。

どこが簡単なのか。

どこで止まるのか。

どこは一度でできるのか。

どこは説明が必要なのか。

一冊を通してみなければ、

それが分かりません。

0点の問題は、

その地図に印をつけたことになります。

■ 「できない」が見つかったなら、前進している

練習8。

2問中0問。

数字だけ見れば、

何もできていません。

でも、

学習記録として見ると、

かなり重要です。

この子は、

「式と証明が苦手」

なのではありません。

練習1から7までは、

ほとんど取れている。

練習9も、

2問中2問。

つまり、

練習8のところに、かなり具体的な穴がある。

ここまで分かれば、

次に戻る場所が決まります。

私は、

こういう記録を残したい。

「数学が苦手です」

では、

何をすればいいのか分かりません。

でも、

「練習8が0/2」

なら、

やることは明確です。

■ 完璧主義は、勉強を止める

これは、

成績が低い子だけの問題ではありません。

むしろ、

真面目な子ほど、

一問分からないと止まることがあります。

全部理解してから進みたい。

分からないままにしたくない。

間違いを残したくない。

気持ちは分かります。

ただ、

その結果、

参考書が終わらない。

数学Ⅰの一単元に何週間もかかる。

英単語100語を完璧に覚えるまで、

101語目へ行かない。

英文法も、

一冊が半年終わらない。

丁寧にやっている。

でも、

丁寧すぎて全体に会えない。

私は、

こちらのほうを怖いと思っています。

■ 英単語でも、同じことをしている

英単語も同じです。

100語全部覚えてから、

次の100語へ行く。

ワカスクでは、

あまりそうしません。

忘れていても進む。

また戻る。

もう一度会う。

そして、

何度も往復する。

数学も、

少し似ています。

分からない問題に印をつける。

先へ行く。

別の問題を解く。

また戻ってくる。

すると、

不思議なことがあります。

前には分からなかった問題が、

次に見ると解ける。

■ 後ろの単元が、前の単元を教えることがある

数学は、

一問ずつ独立しているわけではありません。

後ろの単元で、

似た考え方を使うことがあります。

別の問題を何十問も解いたことで、

計算そのものが速くなることもある。

以前は、

問題文を読んでも何をしていいか分からなかった。

でも、

一冊を進めたあとに戻ると、

「ああ、これか」

となる。

つまり、

理解してから進むだけではなく、進んだから理解できることもある。

これは、

実際に何周もさせていると、

よく起きます。

■ だから「放置」と「保留」を分ける

ただし、

ここには危険があります。

できない問題を全部飛ばしていたら、

当然、穴だらけになります。

だから、

私は区別したい。

放置するのではない。
保留する。

0/2。

1/3。

2/5。

記録に残す。

そして、

二周目で戻る。

そこでまた0/2なら、

少し意味が変わります。

一周目では、

単に初見だったのかもしれない。

二周目でもできないなら、

理解そのものに問題がある可能性が高くなる。

そこで、

説明する。

類題をやる。

必要なら、

もっと前まで戻る。

先生が入るのは、

そこでも遅くありません。

■ 教えるタイミングを遅らせてみる

塾の先生は、

生徒が間違えると、

すぐ教えたくなります。

私もそうです。

横から見ていると、

答えを言いたくなる。

考え方を説明したくなる。

でも最近、

少し待つようになりました。

一回間違えた。

まだ待つ。

次へ行く。

また別の問題を解く。

数日後、

もう一度やる。

それでもできない。

そこで初めて、

「ちょっと見せて」

となる。

もしかすると、

教えない時間も、指導の一部なのではないか。

そんなことを考えています。

■ 自学自習には「飛ばす力」も必要なのかもしれない

前回、

私が知らないうちに、

積分へ入った生徒のことを書きました。

数学Ⅱへ入った生徒もいました。

自分で次へ進む。

これは、

自学自習の一つの形です。

でも、

自分で進むためには、

もう一つ必要な力があるのかもしれません。

分からない問題があっても、いったん先へ行ける力。

一問の0点を、

自分全体の0点にしない。

「ここは分からない」

と印をつけて、

次のページを開く。

これは、

意外に難しい。

■ 0点を怖がらない子は、どこまで進むのか

今回の高校2年生は、

練習8で、

2問とも取れませんでした。

でも、

その日の勉強は、

そこで終わりませんでした。

練習9へ進んだ。

2問中2問。

さらに黄チャートへ移った。

例題1は、

5問中5問。

もし、

練習8の0/2で止めていたら、

その後の7問中6問正解は、

その日には存在しなかったことになります。

だから、

私は0点だけを見ません。

0点のあと、その子が何をしたかを見る。

止まったのか。

進んだのか。

戻ってきたのか。

二回目はどうだったのか。

そこまでが、

一つの学習記録です。

この練習8も、

いずれもう一度やります。

そのとき、

2問中何問取れるのか。

2問中2問になるのか。

また0問なのか。

もし、

また0問だったら、

今度は私の出番かもしれません。

まだ、

答えは教えません。

記録には、

小さく、

0/2。

それだけ残して、

次のページへ進みます。

(『ちりぬるを』第13話 了)

コメント

タイトルとURLをコピーしました