【ちりぬるを】――勉強する子は、どうやってつくられるのか【第14話】

第14話 29問しか取れなかった場所に、翌日もう一度戻る

9月6日。

高校1年生が生物をやっています。

教材は、

『リードLightノート生物』。

4章、遺伝。

84~90ページ。

60問中29問。

半分も取れていません。

100~106ページ。

33問中20問。

112~115ページ。

18問中8問。

かなり間違えています。

その日の記録だけを見れば、

「遺伝ができていない」

ということになります。

では、

どうするか。

私は、

全部をその場で教え込んだわけではありません。

その日は終わりました。

そして翌日。

もう一度、

同じところへ戻りました。

■ 9月7日

100~106ページ。

36問中27問。

112~116ページ。

20問中19問。

前日、

18問中8問だったあたりが、

翌日には20問中19問。

もちろん、

問題数や範囲が完全に同じではないので、

単純比較はできません。

それでも、

変化はかなり大きい。

私は、

こういう記録を見るたびに考えます。

前日の「8問」は、

いったい何だったのだろう。

■ できなかったのか、まだ覚えていなかったのか

テストをすると、

点数が出ます。

50点。

30点。

10点。

そして私たちは、

その数字を、

その子の「能力」に結びつけがちです。

30点だった。

だから苦手。

10点だった。

だからできない。

でも、

日々の学習記録を見ていると、

そんなに単純ではありません。

昨日8問しか取れなかった子が、

翌日19問取る。

一日で、

頭が良くなったわけではありません。

才能が増えたわけでもない。

ただ、

一度間違えたものに、もう一度会った。

それだけです。

■ 低い点数は「判定」ではなく「一回目」

私は最近、

一回目の点数を、

あまり評価しなくなりました。

60問中29問。

悪い。

それで終わりではありません。

私が知りたいのは、

その次です。

もう一度やったら、

どうなるのか。

さらに数日後は、

どうなるのか。

一週間後にも残っているのか。

だから、

29/60は、

成績ではありません。

現在地です。

もっと言えば、

一周目なら、

「初めて穴の場所が分かった」

というだけです。

■ ところが学校のテストは、一回しかない

ここに、

学校のテストの難しさがあります。

定期テストは、

基本的に一回です。

その日に、

覚えていたか。

その日に、

解けたか。

その日に、

思い出せたか。

そこで点数が決まります。

あとから、

「翌日ならできました」

と言っても、

点数は変わりません。

だから、

本番までに、

この、

できない → 戻る → できる

を何回済ませておくかが重要になります。

本番を、

一回目にしてはいけない。

■ 「4周」の意味が少し見えてくる

学校ワークを4周する。

数字だけ聞けば、

単純な反復です。

同じものを何度もやる。

でも、

実際に記録を取ると、

一周目と四周目は、

まったく違います。

一周目。

知らない。

間違える。

二周目。

見たことがある。

それでも間違える。

三周目。

かなり取れる。

四周目。

それでも残る問題がある。

そこで、

初めて分かります。

この子が本当に苦手なのは、どこなのか。

一回間違えただけでは、

まだ分からない。

たまたま忘れていただけかもしれない。

読み違えただけかもしれない。

でも、

4回やって、

4回間違える。

これは、

かなり強い情報です。

■ 先生が教えるのは、そこからでもいい

第13話で、

0問中0問でも、

いったん先へ進むことがあると書きました。

それだけ読むと、

「分からないところを放置している」

ように見えるかもしれません。

でも、

違います。

戻ります。

ただし、

すぐ全部を教えない。

まず、

本人にもう一度やらせる。

すると、

今回の生物のように、

自分でかなり修正することがあります。

前日8問だったところが、

翌日19問になる。

もし最初の8問を見た瞬間に、

私が全部説明していたら、

この子が自力でどこまで修正できるのか、

分からなかったことになります。

■ 教えすぎると、先生の力なのか本人の力なのか分からない

これは、

塾では意外と大きな問題です。

先生が説明する。

生徒が、

「分かりました」

と言う。

直後に、

同じような問題を解く。

できる。

先生は安心する。

でも、

翌週になると、

できない。

なぜか。

説明を聞いた直後だから、

できていただけかもしれません。

私は、

「分かった直後」より、

先生が何も言わなかった翌日

を見たい。

そこで取れれば、

少なくとも前日より、

本人の中に残っています。

■ だから翌日が面白い

勉強記録を毎日取っていると、

一日の成果だけではなく、

翌日とのつながりが見えてきます。

9月6日。

18問中8問。

9月7日。

20問中19問。

この二つは、

別々の記録ではありません。

間に、

学習が起きています。

この「間」を見ることが、

ワカスクの記録では大事なのだと思います。

何時間勉強したか。

何ページ進んだか。

それだけではない。

昨日できなかったものが、今日どうなったか。

そこを見る。

■ ただし、19問取れたから完成でもない

ここで、

第7話と同じ問題が出てきます。

20問中19問。

ほぼ満点です。

では、

もう大丈夫なのか。

まだ分かりません。

明日なら、

また取れるかもしれない。

一週間後なら、

15問かもしれない。

一ヶ月後なら、

10問まで落ちるかもしれない。

だから、

また戻ります。

今度は、

少し時間を空けて。

■ 戻る間隔も、実験になる

翌日。

3日後。

1週間後。

1ヶ月後。

どの間隔で戻れば、

最も残るのか。

これも、

私はまだ完全には分かっていません。

全部を毎日復習すれば、

当然時間が足りません。

間隔を空けすぎれば、

忘れます。

だから、

進むことと戻ることを、

同時に設計しなければならない。

これは、

英単語でも、

数学でも、

理科でも同じです。

■ 学力は、前へ進んだ距離だけでは測れない

先取りをすると、

「今どこまで進んでいるか」

が目立ちます。

数学Ⅱまで行った。

数学Ⅲに入った。

英単語1500語まで行った。

世界史をここまで読んだ。

もちろん、

それも大事です。

でも、

前へ進むだけなら、

ページをめくればできます。

本当に見なければならないのは、

後ろにどれだけ残っているか。

進んだ。

戻った。

また進んだ。

また戻った。

その往復の中で、

少しずつ、

後ろに残るものが増えていく。

私は、

学力というものは、

その状態に近いのではないかと思っています。

■ 29問は、失敗ではなかった

9月6日。

60問中29問。

その数字だけなら、

決してよくありません。

でも、

もしこの29問がなかったら、

翌日の27問も19問もありません。

間違えたから、

戻る場所が分かった。

戻ったから、

取れる問題が増えた。

だから、

最初の低い点数を、

私は失敗とは呼びません。

問題は、

29問だったことではない。

29問だった場所に、戻らないことです。

先へ進む。

でも、

置いていかない。

0点でも進む。

でも、

忘れない。

そして、

もう一度開く。

勉強する子というのは、

もしかすると、

一度で全部できる子ではなく、

できなかった場所へ、自分から何度でも戻れる子

なのかもしれません。

この高校1年生の生物も、

まだ終わっていません。

19問取れたページに、

また戻る日が来ます。

そのとき、

何問残っているのか。

私は、

そこまで記録します。

(『ちりぬるを』第14話 了)

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